いったいどんな樹の花でも、いわゆる真っ盛りという状態に達すると、あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気を撒き散らすものだ。
それは、よく廻った独楽が完全な静止に澄むように、また、音楽の上手な演奏がきまってなにかの幻覚を伴うように、灼熱した生殖の幻覚させる後光のようなものだ。それは人の心を撲たずにはおかない、不思議な、生き生きとした、美しさだ。
しかし、昨日、一昨日、俺の心をひどく陰気にしたものもそれなのだ。俺にはその美しさがなにか信じられないもののような気がした。俺は反対に不安になり、憂鬱になり、空虚な気持になった。しかし、俺はいまやっとわかった。…(桜の樹の下には より抜粋)
🌸予告🌸3月の文豪カクテル
梶井基次郎
『 夕櫻 〜 桜の樹の下には〜 』
( 桜と響のManhattan 〜春のかをりを添えて〜 )
3月の文豪カクテル第一弾は梶井基次郎。
鋭敏繊細な感受性で生の明暗や憂鬱、美しい心情風景を描いた作家です。
誰もが知る冒頭の印象的なあのフレーズ…今回は短編『桜の樹の下には』をテーマに制作。
ジャパニーズウイスキーの銘酒、響17年を贅沢に使用し、桜の香りを纏わせたシックな春色のマンハッタンに仕立てました。
脚のないグラスを持ち上げると、枡の中には桜の花びらが隠れています。
春の訪れを待ちながら、地下図書館で悖徳の花見酒をお愉しみください🌸
3月1日より提供開始です!
十誡